伝統構法を評価し、活かす:2025年全国町並み保存連盟通常総会(京都)勉強会の報告
- 福川裕一
- 7月20日
- 読了時間: 34分
更新日:8月1日
はじめに
町家をはじめとする歴史的建物の保存再生で先導的な取り組みを行なっている京都市が、さらに大きな一歩を踏み出すかもしれない。
『新建築』3月号の巻頭「建築論壇」に、京都市の寺門宏之さんの「まちを継承する取り組み:伝統的構法が拓く建築の未来」が掲載された。寺門さんには、昨年(2025年)6月に京都市長江家で、全国町並み保存連盟総会に合わせて行った勉強会で、講師を務めていただいた。その時、予告された「伝統的構法による町家の新築」を推し進める取り組みについての論文だ。今日の建築基準法のもとで、伝統的構法で町家を新築しようとすると、多くの時間と労力を注ぎ込むことが必要である。それを「国交省略認定」というシステムで乗り越えようという試みである。
なぜ町家の新築か? 寺門さんの前にお話をいただいた作事組の末川協さんは、伝統的構法で町家の改修を行ってきた経験を紹介しつつ「この辺でも、町家は1日2軒なくなるのですごくナイーブになるんですけど、新築の道さえ開ければ、その気苦労はなくなるのかな」と心情を吐露された。町家の新築は、末川さんの10年来の持論だ。もちろん、そのような町家は、近年商品として提供されてきた在来工法による「新築町家」であってはならない。
京都では、2016(平成28)年に4万軒あった町家が、2024(令和6)年には3万2000軒へ減少した。伝統的構法による町家の新築を可能にすることは、そのような減少に歯止めをかけるだけでなく、古い町家を維持するために、伝統的構法による町家に構造上の評価を与え、さらに修理に必要な大工、左官などの技術を維持するために不可欠ということだ。
それ以上に、産業構造を含む地域文化の結実ともいえる町家は、地球環境そして地域文化の継承という観点から、現代においても、都市の基礎単位として正当に位置付けられ、生き続けるべきものである。そのための障害を取り除き、存続の条件を整える今回の措置は、町並み保存、そして歴史まちづくりにとって、私の乏しい想像力を超えた新たな展望を開くのではないかと期待される。
今回の勉強会は、「小規模な建物でも、大規模修繕・模様替を行う場合、確認申請がいるようになった」 という建築基準法改正が、多くに町並み関係者に波紋を広げたことが直接のきっかけに開催された。しかし、小手先の対応にとどまらず、より積極的な展望へつながる可能性を秘めていることがあきらかになったことが、最大の収穫である。
プログラム
勉強会は、2025年6月7日、 京都市下京区四条下るにある長江家住宅(京都市指定有形文化財)をお借りして、次のようなプログラムで行った(敬称略)。
1. 今、町並みの現場で何が問題になっているか ·······················································北島力(NPO法人まちづくりネット八女)
2. 町家をめぐる20年の動き·································末川協(NPO法人作事組)
3. 「建築基準法改正と出来ること集」及び「条例による建築基準法適用除外」:京都市における取組をテーマに ·································寺門宏之(京都市都市計画局建築指導部建築審査課)
1. 北島さんの問題提起
まず、八女の北島力さんに「今、町並みの現場で何が問題になっているか ⁈」と題して、お話をいただいた。その冒頭では、今回の勉強会の背景を率直にお話しいただいた。
問題提起というよりも、今抱えている課題の報告という感じでしょうか。八女福島が抱えている課題が、全国共通なのかどうかは分かりませんけれども。
八女では、4月からの建築基準法の改正*で、大規模修繕に確認申請がいるということで、あたふたしています。瓦とルーフィングまではいいですよとか、野地板が半分以上だったらダメですとか、垂木が半分以上だったらダメですとか、階段の位置が変わったら出してくださいとか、そういう話がもちあがっています。出さなかったり、適当にやったら建築士の免許を剥奪されるんじゃないかとか、そういう話まで飛び交うような感じで、かなりナーバスになっています。
末川さんに聞いたら、京都市からは、考え方が明示されているということです。八女は6万都市で特定行政庁ではないので、確認申請は県へ出します。京都市は自分のところで建築主事をお持ちということで、京都のやり方が、全国に当てはまるかというと、なかなかそうもいかない。
京都市の現状をお話しいただいて、各地区に持ち帰って、どうしたらいいかというのを考えたい。ある意味、こっちから攻めていかないと、県の方も困るのではないかと思います。30万都市で建築主事をお持ちのところは、市との協議だけで済むんですけど、県に申請する場合はワンクッションあるので、まず市と話して、県とどうしていくかということが必要になると思います。
*勉強会の直接のきっかけとなったのは「建築確認審査の対象となる建築物の規模等の見直し」である(「建築確認を要する木造の建築物の範囲の拡大」と呼ぶ資料もある)。この改正は、寺門さんが指摘するように、省エネルギーなどをめざす制度整備の一環として行われた。施行は、令和 7/2025 年 4 月 1 日。法文上は、確認申請とその対象について定めた建築基準法第 6 条(建築物の建築等に関する申請及び確認)の改正で、その改正前後の概要は下に示すとおりである。
改正前、建築確認の対象となる建築物は1号から4号まで4種類に分類されていた。木造の場合、二階建て以下は、4号建築物に分類され、①大規模修繕・模様替は、建築確認の対象としない、②建築士が設計を行う場合には、構造関係規定等の審査が省略される審査省略制度(第 6 条の 4)の対象とする、という二点が定められていた。これは「4号特例」と呼ばれていたが、改正後、2階以上の建築物は、木造・非木造を問わず、すべて新2号建築物に分類され、特例の対象は、平屋かつ 200㎡以下の新3号建築物に縮小された。小規模な建物でも、改修が大規模修繕・模様替に相当する場合、確認申請がいるようになった。

北島さんは、「今日は、そういう話は京都から話していただいて、今、八女が抱えている問題をどうしていくかという話をさせていただきたいと思います。」と、八女の最近の課題や、それらにどう取り組んでいるかについてお話を展開していった。ここでは紹介を省くが、八女の実践と課題を知るとても貴重な報告をいただいた。当日のスライドとお話をあわせた記録を添付する。
2. 末川さん:伝統構法で直す選択
作事組・末川協さんのお話のタイトルは「町家をめぐる20年の動き」。20年前の2004年に、町家の改修だけやろうと設計事務所を設立、取り組んできた活動が、やがて京都市との協働へ至る経過をお話しいただいた。前日に案内していただいた、町家の修理現場を思い浮かべながら、末川さんの町家人生に、少しだけだが触れることができた。

(大学の時、どんどん壊される町家にショック)
末川さんは、御所と鴨川の間にある京都府立鴨沂(おうき)高校の出身。そのころは、新京極の繁華街に映画を見に行くとき、どの道を通っても町家だった。それが、大学へ入った頃から、あっという間に崩れていく。それをリアルに目の当たりにし、すごいショックを受けたそうだ。
京都大学の西川研究室では、京都市への景観政策の提言に取り組んだ。しかし実現は、20年後の2007年の新しい景観条例を待たなければならなかった。「町並みがぐじゃぐじゃにならんと採用されへんかったのかなって。でもまあ、ネバー・トゥ・レイト。遅くてもやらんよりはいい、そんな思いでした。」
(伝統構法で町家の改修を行う設計事務所をはじめた)
設計事務所では、「若い住み手、職住一致」の町家を支援したいと思った。当時は「放っとかされている町家」も多く、流通と改修が同時に必要と言われていた。
2005年から、京町家棟梁塾に取り組む。「町家の仕事を全部マトリックスで組んで、2年間のカリキュラムに割り振って、順番に見に行くというプログラムを組んだ。」この棟梁塾は5期11年間続き、ここを卒業した人材が、今の京町家作事組の屋台骨になってる。
盛んになってきた町家改修には、町家の構造を直す選択肢が5つほど見られたという。
①在来構法で直す:建築基準法に従い、壁量で耐震性能を測り、仕様規定のある金物を使う
②難しい耐震診断:学芸出版の青本*などによって限界耐力計算でやる
③易しい耐震診断:京都市独自で作られた耐震基準**による
④何も考えない:板で塞いでボードを張って、それで売ったり貸したりする
⑤伝統構法
* 『伝統的構法のための木造耐震設計法:石場建てを含む木造建築物の耐震設計・耐震補強マニュアル』2019年6月、学芸出版。表紙が青い。
** 「京町家型標準設計法による耐震設計及び耐震診断・耐震改修指針」平成29年10月https://www.city.kyoto.lg.jp/tokei/page/0000335477.html
多いのは①と④、末川さんたちはもちろん⑤。しかし、構造学者からはなかなか認めてもらえなかった。「国交省の二百年住宅というプログラムで、伝統構法の徹底検証を行う委員会の委員長をやってた東京大学の大橋先生に京都に来ていただき、景観まちづくりセンターの地下で百何十人集まって、公開の意見討論会をやったとき、再生研、作事組はボコボコにやられてしまった。」でも、それがきっかけで、だいぶ考えがまとまっできたとそうだ。
(伝統構法による町家の耐震性)
町家は、側面はしっかりした壁だが、桁行方向に耐震要素が乏しい。しかし「側壁が側柱の回転に合わせて動く。面内方向での変形時に最大の耐震要素となる。これが全方向の水平力を梁間方向に集め、一番強い側壁で受ける仕組み。」というのが、末川さんたちの見立てだ。
改修を進めるうちに、町家の新築もできるなっていう確信を持つに至った。「町家が1日2軒なくなるという中で、新築の道さえ開ければ、その気苦労はなくなるのかなという、そんな風にも確信できました。」
しかし、実際に伝統構法で町家を新築するハードルは高い。末川さんたちは、祇園祭の大船鉾の復元設計に取り組んだ。「幸い、鉾には建築基準法がありませんので(笑)」。あわせて改修した鮒鉾をおさめる四条町会所は、UNESCOアジア太平洋文化遺産保全グランプリ2018を獲得した。
(リノベブームと京都市の施策)
そうこうするうちに、町家の改修がブームとなり、一方で京都市による町家の保全政策が大きく進展した。「10年前の町家をめぐる状況」について、お話しを引用しよう。
町家の改修、リノベなんていう言葉が流行りだして、町家の改修が一般化しているんですけど、我々が目指している伝統構法からはどんどん離れている。町家は金になるという、京都の話ですけど、その商業利用と商品化のすごい偏向がある。
その一方で、京都市による保全の政策が、どんどん進んで、条例レベルで、地区の指定も、団体の指定もあるし、助成も進んできた。
このあと寺門さんにお話ししてもらいますけど、建築指導行政が地方分権化で大きく変わりました。前は何でも霞が関に持ってきてみたいな感じでやっていたところが、もう大体京都市の方と話したら、筋道がつくというようになった。
京都市は、建築基準法三条の適用除外条例を最初に作り、併せて『京町家できること集』という冊子を公表しました。ここまでは、基準法に抵触せずに町家の修繕ができますよっていう指針が示された。さっき北島さんがおっしゃってた、この春の建築基準法の改正に先立つものとして、京都市にはそれがあったんで、今も助かっているというようなことです。
『京町家できること集』は、寺門さんから詳しく紹介があるが、京町家改修に関するもっとも重要な文書・手引きである。副題は「建築基準法の適用除外制度の紹介と建築基準法の下でできること」。初版が発行されたのは、2014(平成26)年1月である。
建築指導課との協働が始まった。前日に見学させていただいた四条通南町の路地裏の火災(2018)の復旧では、建築基準法第86条第2項の連担設計制度が活用された*。接道していないため活用が困難になっている大きなお屋敷を、京都市歴史的建築物の保存及び活用に関する条例を使って、増築・用途変更するプロジェクトも行なった。さらに、京都市の主導で、町家新築への道が開かれることも期待される。
(構造性能評価の方途)
末川さんは、その後も「遠回りでも伝統構法の新築」として鷹山の復元設計を、「コロナ禍でのお祭りのお手伝い」として、京都の北の方の山車や鮒鉾の軸組新調設計を、「群としての改修」として、山陰道の最初の宿場町・片木原という集落のお屋敷や木屋・先斗町の路地沿いの建物の改修に取り組んできた。そして町家の改修が普通に続く。木屋・先斗町は、前日に現場を見学させていただいた。

最後に、課題の「構造性能評価の方途」について、次のようにまとめて、お話を終えた。
ウォールスタッドという、京町家の倒壊シミュレーションの仕組みがあります。実際にある、京都の明治大正以前の建物をコンピューター上で組んで、土壁や仕口などのデータや京都の地盤を入れて、というふうなことでやりますと、大正以前型の町家であったら、阪神淡路ぐらいの地震では、ほぼどうもないのかなと。
地震に対する動きも、大体考えたようなことだったのかなというのが、初めて検証できて、ちょっと意を強くしている。とにかくこの町家なんかもそうなんですけど、大正以前にできた町家は、状態の健全化だけでほぼ大丈夫ですという話を、もう自信を持って言えるようになりました。
一方、昭和初期型の町家、1階と2階の柱が別になっている建物については、1階と2階の壁のバランスとかが大事で、そこはもうちょっと注意深くやらないとけない、というのが分かりました。
3. 寺門宏之さん:京都市の取り組み
真打は、京都市都市計画局建築指導部建築審査課の寺門宏之さん。北島さんの「末川さんに聞いたら、京都市からは、考え方が明示されているということです。」について、担当者から直にお話をうかがうまたとない機会となった。
今回の建築基準法改正についての寺門さんからのメッセージは、「『京町家できること集』で、伝統構法的なものに、基準法の大規模修繕等をどうあてはめていくかを明らかにしてきた京都では、普通に運用とか取扱いをしっかりすれば、これまで通りでできます。みなさんの地域でも、それぞれの建物の特性を踏まえて、ぜひ同様の取り組みを」、ということであった。
少々込み入った話でもあり、寺門さんのお話しをできるだけ正確にたどっていこう。
(京都市の歴史的建築物)
お話は、京都にとって、町家はとても重要な存在だ。その存続を難しくしている原因のひとつに建築基準法がある、という問題提起から始まった。
京都には、伝統産業が多いとか、祭りが多いとか、生活の中に伝統文化が嵌まってるとか、京都ならでは魅力にあふれています。それらは、屏風祭りなどが1ヶ月間続く祇園祭りに見るように、建物と密接につながっています。
ところが、京町家は、2008(平成20)年の48,000棟が、2024(令和6)年の調査では32,000棟へ、急速に減少している。
原因は、強い開発圧力です。特に大通りは、マンションなどに建てかえた方が儲かるっていうのが、京都にも当然あります。その結果、京都らしさを期待してきた人は、賀茂川からの町並みを見て「普通にマンション建ってんやん」ということになってしまう。
逆に、開発圧力のない路地などでは空き家が増えています。建て替えが難しいからです。いずれにせよ、今の町家を遺して使っていこうとすると、どうしても建築基準法の問題がでてきてしまう。
(歴史的建築物の保存活用における課題)
では、建築基準法は、どのように町家の継承をむずかしくしているのか? まず、古い建物の改修や活用にかかわる建築基準法のイロハを説明していただいた。
建築基準法の制定は1950(昭和25)年。すでに京町家はありました。建築基準法は、法律ができた時にすでに存在していた建物が、そのまま存在するだけなら、すぐに適合させなくても良いとしています(「不遡及の原則」といいます)。その代わりに、①大規模修繕、②用途変更、③増築をする場合は*、それらの行為をきっかけに、「建物全体を今の法律にあうように遡及適用しなさい」というのが基本ルールです。
* 以下「大規模修繕・用途変更・増築」のように表記するが、正確には、①大規模の修繕・大規模の模様替、②用途変更、③増築・改築・移転。たとえば、水回りなどをいったん解体して同じ大きさのものを建てる場合は改築に相当し、遡及適用の「きっかけ」になる。
私たちは、京町家を保存活用するために、増築などをしても、次のようにしたいと思っています。でも、今の法律を文字通り遡及適用すると「出来へん」となる。 ・ 格天井や竿縁天井などを現状のまま保存して活用したい(内装制限) ・ 木造建具、虫籠窓などの外観意匠を継承して保存活用したい(防火設備) ・ 道路にはみ出している軒先を除却せずに外観を保存したい(道路内建築) ・ 伝統構法を活かして活用したい(構造)
そうなると、町家の利活用が進まないばかりか、いっそ建て直してしまえ、ということが起きてしまう。でも、どんな建物も、修繕なしには使い続けることができません。
ここで、まず問題になるのが、北島さんの問題提起の中でも触れられていた、どういう行為が大規模修繕・用途変更・増築にあたるのかという点だ。京都市は、この問題についての見解を、2014(平成26)年1月に『京町家できること集:京町家を保全・再生するために建築基準法のもとでできること』という冊子を公刊して明らかにした。

あらゆる建物を対象にする法律では、どうしても曖昧な部分が出てきてしまいます。『できること集』は、その点を京町家に即して明示したものです。さっき北島さんの方からでた曖昧な点を、「こういう範囲でしっかりやりましょうよ」ということを示して、払拭しようととしたものです。
それを超えたら、大規模修繕・用途変更・増築に相当し、確認申請の手続きが必要になります。とはいえ、「現在の基準のどこまで遡及適用するのか」という点については、ここ10年ぐらいの基準法の流れでは、既存の建物に対して、優しく緩和をしていこうという措置がとられています。
さらに、基準法の大規模修繕に相当して遡及適用も受けるけど、「絶対残さなあかん」という場合には、「3条その他条例による適用除外制度」を使います。これある意味究極のツールで、京都市では、それらを駆使しながら、保存活用をやっていくということを行っています。
以上をまとめると、歴史的建築物の改修には以下の三つのパタンがあることになる。
1)大規模修繕・用途変更・増築にならない範囲で行う
2)大規模修繕・用途変更・増築にあたる改修を行う
3)建築基準法適用除外制度を活用して改修する
1)の、大規模修繕・用途変更・増築にならない範囲については、特に大規模修繕に法文だけではグレーゾーンがあり、『京町家できること集』で、京都市の判断が示されている。
悩ましいのは、今回の勉強会の直接のきっかけになった、建築基準法上の手続き(確認申請)の要否である。1)は手続き不要、3)は適用除外のための手続きが必要であるが、2)については、以下のようになる:
①大規模修繕:小規模な建物では不要だったが、今回の改正で必要の範囲が拡大
②用途変更:200㎡以上の場合、必要
③増築:10㎡未満では不要、ただし防火地域・準防火地域では10㎡未満でも必要
今回の勉強会のきっかけは、①大規模の修繕・模様替について、多くの町家で、これまで不要だった建築確認の手続きがいるようになったことだった。
(今回の建築基準法改正)
京都市の施策に詳しく触れる前に、今回の建築基準法改正について、整理していただいた。
建築基準法には、建築工事として、新築、増築、改築、移転、大規模の修繕、大規模の模様替の6つが掲げられています。このうち、大規模の修繕と模様替については、これまで「2階以下、又は延べ面積500㎡以下の木造」は、建築確認の手続きが不要でした。それが、今回の改正で「2階以上、又は延べ面積200㎡超の建物」は、大規模の修繕・模様替を含むすべての工事を建築確認の対象とすると改められた。大規模の修繕・模様替の手続きが不要な建物は、「平屋かつ200㎡以下」に限定された。2階になった時点でもう、「手続き全部いるんです」ということになりました。
これまで多くの町家は、大規模の修繕・模様替について建築確認の手続きが不要だった。それが、「大規模の修繕・模様替の手続きがいるぞ」となったわけです。
なんで町家をいじめるの?と言いたいところだが、今回の改正は、特に町家をターゲットにしたわけではなく、もっと大きな背景のもとで行われた。
建築基準法が改正された社会背景ですが、まずリフォーム市場の環境整備が急務というのがひとつです。もうひとつは、省エネ。これが一番強くて、建築物省エネ法が「規模の大小に関わらず原則全ての新築住宅・非住宅に省エネ基準への適合が義務付けられる」というふうに改正されたので、そこに引きずられて、大規模の修繕・模様替まで、木造二階建て以上の建築物に確認申請が義務化されるようになった。
今回の改正は、「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律」(令和4年6月17日法律第69号)として行われ、表記の「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(建物省エネ法)」のほか、建築基準法、建築士法の改正が行われた。改正の内容としてあげられている6項目のひとつが、「建築確認審査の対象となる建築物の規模等の見直し」だった。その施行が、勉強会直前の2025(令和7)年4月1日だった。
ただこれは、手続きが必要になったということであって、規模に関わらず、手続きが不要な場合でも「大規模修繕・模様替をやったら、遡及適用が発生する」というのは、今までと変りません。実は、この点は結構、誤認がありそうな気がしています。
規模などによって手続きが不要でも、遡及適用が必要となるのは、用途変更や増築の場合も同様である。
今まで手続きを出したことなかったり、手続きを建築士さんにお願いしたり、いろいろフィーが発生したり、やりにくくなっているのは事実だと思います。一方、法律のルールの中では、大規模修修繕・模様替には、かなりの緩和があって、その中で割と普通にやれるんではないかっていう部分もかなりあります。
たとえば、構造について、危険性が増大しなければいいとしているので*、現状維持で健全化しますと言ったら、構造耐力にかかわらずに大規模修繕・模様替が可能です。耐震化しなあかんかとか、今の基準法の耐震性までいるのかとか、そんなことはないです。
*建築基準法施行令第137条の12(大規模の修繕又は大規模の模様替)。なお、増築の場合は、一棟増築で既存の延面積の1/20以下かつ50㎡以下の場合、同じ扱いになる(法第86条の7第1項、令第137条の2第3号イ。用途変更では、構造耐力は遡及適用されない(法第87条第4項)。 このように、大規模修繕、用途変更、増築それぞれで緩和される規定が異なり大変複雑である。この点について、国土交通省から『既存建築物の緩和措置に関する解説集』(第3版、令和7年11月)が示されている https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/content/001967457.pdf
今回の改正は、その緩和措置をさらに拡大した。改正内容6項目には、「既存建築ストックの長寿命化に向けた規定の合理化」が掲げられ、そこには「既存不適格建築物における増築時等における現行基準の遡及適用の合理化」が含まれている。大規模の修繕又は大規模の模様替にかかわる緩和措置を列記した建築基準法施行令137条の12は、14号からなるとても長いリストになった。こちらは1年前の、2024(令和6)年4月1日に施行された。
とくに画期的だったのは、緩和措置の対象が、接道義務を果たしていない敷地での大規模修修繕・模様替、そして道路内建築の制限など、いわゆる集団規定へ拡大したことだ。いずれも京町家の継承にはきわめてクリティカルなポイントである。ただし、増築はこの緩和の対象になっておらず、後述の建築基準法適用除外制度に頼ることになる。
路地裏など、敷地が4メートル以上の道路に接していない場合、大規模修繕・模様替ができなかった。これに関しては、特定行政庁が認めたらいいとなりました。
道路へのはみ出しについても、今までなら「軒先を取れ」となってたわけですけど、OKになった。
それらが法で定められました*。これは、各行政庁が認定基準を作ることになっているので、京都市では、基準をもうすでに作ってあります**。令和7年度だけですが、路地奥町家の大規模修繕の計画策定を支援する補助制度も行いました***。
* 建築基準法施行令第137条の12第11号、12号
** 建築基準法第43条第2項の規定に基づく許可基準 (大規模の修繕・大規模の模様替) https://www.city.kyoto.lg.jp/tokei/cmsfiles/contents/0000271/271510/tebikidaikibo.pdf
*** 路地奥町家も大規模修繕、計画策定を支援 https://kyoto.zennichi.or.jp/topics/data/tenpu_766.pdf
(建築基準法改正とできること)
建築基準法改正の内容を確認したところで、改めて、歴史的建築物の改修等を京都ではどのように扱っているか、説明をいただいた。出発点になるのは、2014(平成26)年1月に初版がでた『京町家できること集』である。焦点になるのは、遡及措置のトリガーとなる大規模修繕・模様替え、用途変更、増築のうち、あいまいな部分が多い大規模修繕・模様替えである。あらかじめ法律上の定義を確認しておこう(建築基準法第2条14,15)。
【大規模の修繕】建築物の主要構造部の一種以上について行う過半の修繕をいう。
【大規模の模様替】建築物の主要構造部の一種以上について行う過半の模様替をいう。
ここにでてくる「主要構造部」の定義は以下である(建築基準法第2条5)。
【主要構造部】壁、柱、床、はり、屋根又は階段をいい、建築物の構造上重要でない間仕切壁、間柱、付け柱、揚げ床、最下階の床、回り舞台の床、小ばり、ひさし、局部的な小階段、屋外階段その他これらに類する建築物の部分を除くものとする。
大規模修繕・模様替は、基本的に、主要構造部を改修するときに発生します。主要構造部を改修しないのなら関係ない。例えば、1階の床全部を取りますというのは、1階の床(=最下階の床)は主要構造部ではないので、もうその時点でできます。
よくある、キッチン、トイレ、浴室などの水回りの工事。これらは主要構造部を触らなければ、大規模修繕・模様替になりません。
主要構造部を改修する場合も、半分以上触ったら対象にしますということなので、「じゃあ半分ってなんやねん」という話ですね。法律には書いてない。
今回の改正に関連して、国交省から「木造戸建の大規模なリフォームに関する建築確認手続について【令和7年2月21日時点】」という文書が公表され*、「過半の判断は、主要構造部ごとに行う」として、部位別に「過半」の考え方が示され、ディテールも例示されている。ただし、伝統構法の場合までは示されていない。順に、京都市の扱いと対比しながら説明していただいた。『できること集』のハイライトとなる部分だ。
屋根。国交省文書は、総水平投影面積に占める割合で過半を判断するとし、「屋根のふき材のみの改修を行う行為、既存の屋根の上に新しい屋根をかぶせるカバー工法」は、大規模の修繕・模様替に該当しない、「垂木にまで及ぶような改修で、改修面積の総水平投影面積に占める割合が過半となる場合は建築確認が必要」とする。
屋根は、できること集では、「瓦、野地板の葺き替えは、屋根を構成する部材の一部の補修であるため、瓦や野地板の全面的な葺き替えを行なっても大規模な修繕にあたらず、建築基準法の遡及適用は受けません」としています。また、「垂木の部分的な修繕はできます。屋根の面積の半分以下の垂木の修繕であれば、建築基準法の遡及適用は受けません」としています。補強して足すだけなら構わない。
壁。国交省文書は、総面積に占める割合で過半を判断するとし、外壁の外装材のみの改修等を修等を行う行為、外壁の内側かから断熱改修等を修等を行う行為は、大規模の修繕・模様替に該当しない。ただし、外壁の全てを改修する場合はこの限りでない。また、既存の外壁に新しい仕上材をかぶせる改修等は、該当しないとする。
伝統構法で言うと、我々のエリアでは、土壁になります。国交省の例示にはありません。京都では「荒壁まで全部とってもいい、ただ下地は残して」という取り扱いにしています。小舞竹まで修繕した場合も、壁の半分以上の面積にならなかったら、2、3枚全部やりかえても、大規模修繕になりません。
階段。国交省は、その階ごとの総数に占める割合で過半を判断するとし、過半に至らない段数等の改修を行う行為として、階段の上り位置の変更を行う場合等に行う過半に至らない段数等の改修を行う例を挙げる。また、既存の階段の上に新しい仕上げ材をかぶせる改修も、大規模の修繕・模様替に相当しないとする。
でも、「おじいさん、おばあちゃんが2階上がんのに、階段が急で危ないし、架け替えたい」というとき、無接道だから出きないというのはナンセンスです。京都では、「現行の規定に適合しない急勾配の階段を掛け替える場合は、遡及適用が生じない」としています。
では、大規模な修繕になってしまったらどうなるか。『町家できること集』では、「大規模の修繕・模様替えを、準防火地域内で、延べ面積100㎡以下、2階以下の住宅で行う場合」「2階以下,延べ面積200㎡未満の住宅を旅館へ用途変更する場合」などを例示し、防火規定、集団規定、構造、避難規定などがどのように適用されるかが、ひと目でわかるようにしている(20〜23ページ)。
大規模修繕になったとしても、さっきから見てきたように、いろんな緩和があります。けれど、結構わかりにくい。各設計者が、個別にやっていくというのは、法律の読み込みとか、結構労力がかかると思う。建物のボリュームとか形式とか、ある程度見えたら、「基本的にこういうことだよね」って例示して、こうやったら合法にやれるということがわかると、すごい楽だと思う。
『京町家できること集』以外の「既存建築物の活用に役立つ京都市の資料」として、『京都市建築法令実務ハンドブック*』から、ふたつの興味深い措置を教えていただいた。同ハンドブックは、「その計画が建築基準法に適合しているかの具体的内容については、各々の地域で個別に判断をせざるを得ない場合もある。しかし、その適合性を確認するに当たり、設計者である建築士と建築指導行政との間で法の解釈が異なっていたのでは、円滑な確認検査を行うことが困難となる。」ことから、京都市としての法解釈を示したものである。『京町家できること集』との連携も図られている。
ふたつの措置とは、「無接道の既存不適格建築物を用途変更する場合(法35条、令128条)」「長屋の一住戸を用途変更する場合の界壁などの注意点」(法36条、令第114条第2項)である。
そもそも路地にあって、つまり道路に面していない敷地で、用途を、たとえば住宅から旅館へ変更したいというのが結構あります。
敷地内の通路が、避難通路として「道又は公園、広場その他の空地」に面していなければならないという法律があります。施行令128条にあるんですけど、京都市では、その路地自体が空地になっていれば、法律上の道路ではないけど、「その他の空地」として扱うという解釈を行なっています。その結果、路地奥でも用途変更ができるようになり、空き家にならないように活用していくことができます。
長屋の1住戸を用途変更する場合の界壁について、防火上主要な間仕切り壁にする必要がある場合とそうでない場合を明確にしています。
このように、ここまでの範囲はやらないといけない、ここはもうそもそもあたらないということを、明確にしようとしています。
(建築基準法適用除外制度)
改修の三つ目のパタン、建築基準法適用除外制度による改修についても、詳しいお話をいただいた。今回の建築基準法改正と直接関係ないが、増築を含む活用を行おうとすると、この制度を使うことが究極の選択となる。歴史的建築物の改修に関しては、三つのパタンは一体であり、まとめて一人前ということだ。
勉強会の時点で同制度の活用事例は26であったが、直近の資料では31となっている*。増えたのは住宅5件で、町家の合計は21件となった。少ないようだが、条例制定当初、町家の活用事例が、龍谷大学深草町家キャンパス1件だったことを思うと隔世の感がある。
保存のためには活用が必要です。活用のためには、増築や用途変更が必要になるが、法の遡及適用を受けてしまうと、活用が進まなくなる。そんな問題を回避するためには、法の適用を除外するというのが最終的な手段となります。
そこで、京都市では、建築基準法第3条第3項の「その他条例」として、2012(平成24)年に「京都市伝統的な木造建築物の保存及び活用に関する条例」を定めました。神戸市が先に条例を作りましたけど、民間の普通の方が申請して除外するのをやろうというのは、京都市が初めてです。近代建築も対象にするために、1年後に「京都市歴史的建築物の保存及び活用に関する条例」へ改正しました。
歴史的建築物を活用するにあたって、特に増築を伴う場合、建築基準法に適合できない条項に対し、代替措置を講じ、建築を可能にする。そうすることで、歴史的建築物の活用を可能にし、同時に安全性を高めるというのが条例の趣旨です。
条例制定まで、ずっと国交省と協議をしてきましたが。その中で浮かびあがったのは、代替措置として、ハードだけじゃなくて、ソフトで対応することを認める。ソフト面でできるようなことを代替措置に組み込み、安全性基準と同等の性能まで確保し、改修を認めていくというのが、我々が作った条例のルールです。
建築基準法第3条第3項「その他条例」について、改めて条文を確認しておこう。建築基準法第3条は、「この法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定は、次の各号のいずれかに該当する建築物については、適用しない。」とし、第3号で「文化財保護法第182条第2項の条例その他の条例の定めるところにより現状変更の規制及び保存のための措置が講じられている建築物(次号において「保存建築物」という。)であつて、特定行政庁が建築審査会の同意を得て指定したもの」をあげる。
2014(平成26)年には、観光立国を目指す「古民家緩和」の一環として、あらかじめ包括的に同意する基準を定めることで、建築審査会の個別の同意を不要とする技術的助言が示され、京都市も2017(平成29)年に「包括同意基準」を定めた*。
* 建築基準法第3条第1項第3号の規定に基づく指定に係る包括同意基準https://www.city.kyoto.lg.jp/tokei/cmsfiles/contents/0000335/335472/210108_houkatudouikijun.pdf
京都市歴史的建築物の保存及び活用に関する条例:手続BOOK【技術的基準解説編(包括同意基準)】https://www.city.kyoto.lg.jp/tokei/cmsfiles/contents/0000273/273648/houkatubook2203.pdf
『町家できること集』令和3年改訂版には、「はじめに」の後に「京町家の改修手法」と名付けたページが挟まっている*。
京町家の改修手法には、「A建築基準法の適用除外制度に基づく改修」と「B建築基準法に基づく改修」の二種類があると紹介し、[できごと]とそれに必要な工事の内容によって、Aによる場合とBによる場合の、メリット・デメリットを比較した表が示されている。
この表によると、「お風呂が傷んできた」という[できごと]に伴い水回りの増築(建替え、一部増築)を行う場合、Aは◎、Bは△、Aが「おすすめ!」としている。
Aだと、建物の価値を残しながら活かせる、建築基準法のルールと異なる京都独自のルールで安全を確保するメリットがあるが、Bでは、建物の価値を損なう改修になる、防火改修や耐震改修など、法律に適合することが難しいというデメリットがあるとする。
確かに、増築の場合、大規模の修繕・模様替えほど、緩和措置がとられていない。増築の場合、法適用除外制度を使うとどのようなことができるようになるのか。
*京都市のサイトの『町家できること集』のページですぐにみることができる
外壁・軒裏は、法適合させると、町家の意匠が損なわれます。法の認める仕様はいずれも京町家に当てはめるのは困難です。そこで、同等の性能を持つ多様な仕様を用意し、対応します。
開口部は、延焼のおそれのある部分(延焼ライン)内では木製建具がむずかしい。耐熱強化ガラスへの切り替えを促すなどして木製建具の使用を認めます。
構造は、なかなか難しい。法適合させると、構造計算や、それにあわせて改修が必要になります。京都はものすごい地盤がいいというのがわかっているので、京町家に適した耐震手法で改修します。
道路突出は、そのまま残すことが認められます。
建蔽率や容積率がアウトになっている場合は、法適合させると、潰して合わさなければならないということが多いのですが、基本的に、周辺の自然環境へ支障がなければ減築しなくてもよいとします。
防火避難に関しては、先ほど申し上げたソフトの代替措置を使い、基準法の規定とのバーターを認めます。
対象建築物はかなり広いです。国の法律や条例にもとづいて指定や登録されたもののほか、市民の推薦で選ばれる「京都を彩る建物や庭園」も対象です。
『町家できること集』では、適用除外制度について「Q2 どんな町家でも使えるの」という問いをたて、「A2 文化財等の指定を受けていない京町家(昭和25年以前に建築されたもの)でも「対象建築物指定」の手続きを行うことで、当制度が使える」としている。
この制度のポイントは、①保存と活用のメリハリをつける、②適用除外する法令に対しソフトを含め代替措置を設定する、そして、③保存と活用、適用除外と代替措置のベストミックスをつくる、の3点です。代替措置によって、地震や火災に対する安全について、ハード面とソフト面から、しっかり建築基準法と同等の性能を持たせます。建物の本質的価値を見極め、保存するところと、活用のために改変するところのメリハリをつけます。地震に対する補強も、内装に価値があるところは触わらず、それ以外の場所で行います。
ソフト面の代替措置は、次のように、火災の場合に大きな役割を果たす。
基準法の考え方は、火災が発生しても、建築自体が燃えにくく、燃え広がりにくくすることで、安全性を確保しようとしています。その場合、サッシをアルミなどにすると、歴史的建物の良さを損ねてしまう。
そこで、建物そのものを燃えにくくするのではなく、そもそも火事を起こさない、万が一火事になってもすぐ消す、燃え広がる前に避難できるようにする、という対策を講じます
①出火防止・初期消火では、そもそも火を使わない(IHヒーターにする、禁煙にする)、古い電気配線を改修する、火事が出ても消火器などですぐで消せるようにするなどの措置をとります。
②早期覚知・連絡通報:早期覚知は、基本的に警報機つけてもらいます。連絡通報は、消防発報できるようなものつけるとか、在館者へ知らせる手段を用意しておく。
③避難安全:二方向の避難経路を確保します。建築基準法だと階段が二つ必要になりますが、2階の窓から避難梯子でもOKです。
④火災拡大防止、外部延焼防止:コンロや暖房のまわりの不燃化、防炎カーテンや絨毯の使用、見えない屋根裏に防火壁を設置するなど。 防火設備:耐熱ガラスを入れた木のサッシ、ドレンチャー、木製防火戸。放水銃の設置、防火塀・袖壁、隣地側を無窓にするなど。
⑤その他:自衛消防として、避難訓練を地域と一緒に取り組んでいただく。「減災文化」という言葉がありますが、生活文化として継承されてきた、災害に対する暮らしの知恵を意識するよう促します。
2012(平成24)年に始まり、活用事例は、お話をうかがった時点で26となった。勉強会会場の長井家の北棟、東本願寺御影堂のような大きな堂宇、文化庁新庁舎、NTTがホテルにした元京都市立清水小学校などの近代建築だ。どのような建物で使われているか?
立地でみると、地価が高いところでは、なかなかならないというのが現実です。建物を全部残しても事業が成り立つ、そういうエリアに多い。
この制度を利用しているのは、民間企業が15、官公庁・学校・寺社等が10、個人が3。個人の全部、官公庁・学校・寺社等のうち3つ、そして民間企業のうち13が木造で、その大部分が町家です。
適用事例として、長江家住宅北棟、元京都市立清水小学校、文化庁新庁舎(もと京都府警察本部本館)、祇園甲部歌舞練場、郭巨山町会所、について詳しく紹介していただいた。長江家住宅北棟については次のような説明をいただいた。長江家は、2棟からなる大きな町家で、勉強会の会場は南棟、北棟は旅館として使われている。
今日の会場になっている長江家さんは、この北側の棟が、建築基準法適用を除外した部分です。
そもそも道路にはみ出していて、増築をしている。平面図の、左下角の水まわりのところが増築です。住宅から旅館へ用途を変更して増築しているから、そのまま基準法にかけたら、道路にはみ出してる庇の軒先は切らなければならない。建具とかも合っていない。
この建物は、「包括同意基準」をはじめて適用しました。個別認定案件だと、耐震度改修の内容を結構しっかりやらないといけない。包括同意基準だと、小さい増築とかだったら、地震に関しては健全化だけでよいとか、かなり緩い規定になっています。対象は、200㎡以下、2階建てまで。ただ、適用事例があまり増えていないのが課題です。
(その他、京都市の取組み)
最後に、「既存の町並みや景観を、どう将来につなげていくかというテーマ」として、京都市のふたつの取り組みを紹介していただいた。木製防火雨戸と、冒頭に触れた「伝統的構法による町家の新築」である。
ひとつは木製防火雨戸です。これは我々が開発し、大臣認定までとったものです。建物の保存がどうにかなっても、結局アルミの雨戸を入れなければならないということでは元も子もない。そこで、耐火試験をやって、現行の建築基準法の防火設備仕様に適合した建具を作り出しました。
大規模修繕の時に使えば、既存の土壁やあらわしの軒裏が存置可能になります。法適用除外制度でも使ってます。新築にも活用可能です。
今、伝統構法での新築に大臣認定を取得することに取り組んでいます。さっき北島さんから、左官の話がありましたけど、京都でも、大工さんより左官さんがしんどい。かなりベテランでも、「荒壁は、若い時につけたぐらいや」という状態です。木工や左官の技術は、京都らしい景観を守り・つくるという目標の基本です。保存の技術は、建てないと維持できないです。
一方、伝統構法で町家を建てたいと思っても、工務店が普段やっていないとか、面倒くさい計算とか手続きがいりますとなって、やっぱりハードルがある。
このハードルをさげたい。ターゲットは、胴差のある、昭和初期型で割と近年に建てられている町家です。いろんな300ケースぐらいで計算して、大臣の認定をもらって、いちいち計算しなくていいようにしたい。
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寺門さんは、今回の法改正に関して、「各都市で、それぞれの地域の建築物の特徴にあわせて、『できること集』を示せば、みんな気持ち悪くなくやれるんではないかと思います」と、お話しを締め括った。対症療法にとどまらず、歴史的建築物を活かして保存するための建築ルールのあり方という基本的な課題に、正面から、総合的に取り組む必要性と可能性を教えていただいた。最後に、「役所が動くには現場の声が不可欠です。課題解決には、やっぱり、地域と共同して取り組んでいくことが重要なんだろうと思っています。」と結んだ。
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北島さんの問題提起を聞いて「あれっ」と思ったのは、八女は重伝建地区なのにということであった。一般的な説明では、重伝建地区では建築基準法の適用に緩和措置がとられているとされている。しかし、この制度はきわめて限定的である。重伝建地区は、第85条の3(伝統的建造物群保存地区内の制限の緩和)で「国土交通大臣の承認を得て、条例で」緩和措置がとれることになっているが、「建築基準法緩和条例」を定めている都市は少数で、緩和の対象となる規定も限定的である。京都市場合は、祇園新橋地区で言うと、道路内の建築制限、建築物の各部分の高さのふたつである。八女福島では緩和条例自体がない。つまり、重伝建地区でも、建物の修理や改修は、重伝建地区外の建物と同じルールのもとで行われる。
歴史的な都市では、範囲が限定的な重伝建地区の外にも、多数の歴史的建物が存在する(京都の場合がまさにそうだ)。さまざまな事情で、重伝建地区という制度を活用していない歴史的都市も少なくない。今求められているのは、それらを含めた歴史まちづくりである。懸念されるのは、それらの建物が、建築基準法もひとつの原因になって、不適切な改造が行われたり、活用が進まず取り壊されていくことだ。
今回教えていただいた京都市の取り組みは、重伝建地区であるとないとにかかわらず京都市全域が対象だ。それは、歴史まちづくりとって不可欠のインフラだといえよう。
この種の議論は、これまで専門家や行政の枠組みの中にとどまりがちであった。しかし、「建物を使い続けるためには修繕は不可避だ」「活用ができて保存ができる(きちんと保存ができなければ、適切な活用もできない)」そして「地震や火災時の安全の確保」は、歴史まちづくりの根幹に関わる課題である。この課題の重要性を、より多くの人へ訴え、歴史まちづくりの基本的な項目として位置付けていく必要がある。
