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福川裕一

日立で歴史まちづくりが再起動:11月にセミナー、1月にシンポジウム。共楽館周辺では町家再生プロジェクトが始まる

更新日:1月28日

 私たちの仲間・共楽館を考える集いが活動してきた日立で、新しい動きだ。昨年11月から本年1月にかけ、同集いの主催で「文化をつなぐ共生のまちづくり『わがまちの魅力再発見』」と題して、①セミナー「近代化遺産・文化財を活かしたまちづくり」(11月25日)、②バスハイク「近代化遺産再発見;共楽館界隈〜中里水力発電所」(11月26日)、③シンポジウム「わがまちの魅力再発見」(1月14日)が行われ、多数の市民が参加した。

 同時に、共楽館のある新町(現在の地名は白銀町)で、残り少なくなった町家の保存・活用をめざす「花久邸プロジェクト」が始まった。新町は、現在は海沿いの日立駅まで広がる日立中心市街地の出発点となった町である。



共楽館界隈(新町)、手前が花久邸


 共楽館は、集いの活動が実り、2009年に市の文化財に指定されたのち、2010年1月から素屋根をかけ、雨漏りがひどくなっていた屋根の修理や耐震補強などの改修工事が行われた。竣工は2011年3月25日だが、11日の東日本大震災では主な工事は終了していて、被害を免れた。ただ、用途は従来通り武道館で、回り舞台や花道などの遺構は、床の下などに封印された。それでも、共楽館を考える集いは、映画会や音楽会などを開催し、文化発信の拠点として活用する努力を続けてきた。2017年の創建100周年の記念事業では「未来へつなく郷土の芸能 in 共楽館」として「常陸大宮市西塩子子ども歌舞伎」が披露された。2022年11月に組み立て式舞台を導入、翌年4月には、この舞台を使って同じタイトルのもと、子ども歌舞伎が6年ぶりに上演された。


 一方、新田次郎の小説「ある町の高い煙突」の映画化をきっかけに(2019年6月22日劇場公開)、市民の手で紙芝居「大煙突とさくらのまち」が制作され、2021年3月には、「映画『ある町の高い煙突』を応援する会」を母体に、幅広い市民団体が集まる「大煙突とさくら100年プロジェクト」が結成された。100年前の煙害を、住民と企業が協力しつつ高い煙突をたてて解決し、日立を「さくらのまち」へ導いていった史実を誇りに町づくりをすすめようという運動である。2023年3月には『大煙突とさくらのまち読本:100年前に史実を起点に100年先の未来を創る』を刊行した。


 11月の①セミナーと②バスハイク、1月の③シンポジウムはこのようなタイミングの中で行われた。


 ①セミナーでは、伊東孝さんと福川が講演を行った。現在は産業遺産情報センターの研究主幹をつとめる伊東さんは、内外の産業遺産の保存・活用事例を紹介、日立は町全体が近代化遺産であると喝破した。福川は、めざすのは、日立まちなかをエコ・ミュージアム(日立まるごと博物館)ととらえ、共楽館周辺をそのコアとして整備することであるとした上で、主催者からの要請に応じて、各地の事例を紹介した。とりあげたのは、川越、高松丸亀町、石巻まちなかの震災復興である。


 ②バスハイクは、日立鉱山の遺産だけでなく、本山トンネルを越え、煙害問題で活躍した関右馬充の生家のある入四間の集落を抜け、鉱山へ電力を供給していた茨城県最古の中里発電所までをたどった。美しい里山と植樹によって復活した自然の中に眠る近代の歩みに想像力が掻き立てられた。



 ③シンポジウムでは、私と伊東さんが30分ずつ、それぞれの立場でこれまでのまとめをした後、となり町・常陸大宮市で西塩子の回り舞台復活(上記子ども歌舞伎はその成果のひとつ)や高部宿の町並み保存に取り組んでいるNPO法人美和の森の石井聖子さん、「大煙突とさくら100年プロジェクト」の原田実能さん、そして共楽館を考える集いの佐藤裕子さんが、それぞれの活動について報告した。いずれもとても中身の濃い内容だった。


 私は、『大煙突とさくらのまち読本』の巻末に綴じ込まれている「大煙突マップ」に着目した(注1)。バスハイクで訪れた範囲と、海辺の日立駅周辺に広がる現在のまちなかまでを一望できるマップだ。中には、近代化遺産はもとより、いま注目されているお店まで書き込まれている。中心には大煙突。この領域は、鉱業や製造業主体の産業都市として栄えてきた日立が、これから創造都市として展開していく舞台にほかならない。多くの創造的な人を惹きつけるには、この領域の魅力を磨くことが不可欠だ。


 「近代化遺産・文化財をいかしたまちづくり」はその基本的な手段である。「モニュメントの保存から文脈の保全へ」という、UNESCO勧告にもとづくHULアプローチがピッタリあてはまる(注2)。HULアプローチでは、基盤となる自然から現代までをレイヤーとして把握することが基本とされるが、このマップがまさにそれなのである。


 陣内秀信さんによれば、イタリアでも「チェントロストリコ(historic center)からテリトーリオ(territory)へ」が歴史環境保全の大きなうねりだそうだ(注3)。このマップの上にどのような未来を描くのか?、共楽館界隈ではじまった花久邸プロジェクトがその突破点になってほしいと期待が集まる。


*注1)マップは下記から見ることができます。裏面も秀逸です

https://hitachi100.blog.jp/archives/9612479.html *注2)HUL(Historic Urban Landscape)については、本サイトのホームページから一連の資料をご覧いただけます

*注3)植田暁ほか『トスカーナ・オルチャ渓谷のテリトーリオ:都市と田園の風景を読む』(古小鳥舎 2022.9)の陣内さんによる解説




 会場には、長らく共楽館を考える集いの事務局長をつとめ、2004(平成16)年から2009(平成21)年まで、全国町並み保存連盟の事務局長として活躍された市毛環さんも姿を見せ、新しい盛り上がりに喜びを隠さなかった。


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