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  • 福川裕一

川越水村家住宅、取り壊しの危機


 第42回全国町並みゼミで「保存に関する決議」を採択した水村家住宅が、今まさに取り壊しの危機にある。自治会、市民有志そして子孫の水村さんが動いているが、状況は厳しい。ここまでの経過を整理し、事態の打開へ向けての一助としたい。

 川越の蔵造りの町並みは、1893(明治26)年の大火ののちに再建されたものだ。この火事で、今は重要文化財になっている大沢家はじめ土蔵が焼けのこり、蔵造りで町を再建するきっかけになったと言われている。しかし、蔵造りではないが、火事にあわずに遺った町家がある。それが火事を免れた喜多町(江戸時代の町名は北町)の水村家住宅である。この経過からもわかるように、同住宅は、建設時期が江戸中期にさかのぼると推定され、川越のみならず関東でも最古級の町家である。喜多町会館を起点にした町歩きに参加した人は、ご覧になったはずだ。

 昨年(2019)12月3日、取り壊されそうだという情報を得て、日本建築学会関東支部は、川越市長ほかあてに水村家住宅主屋の保存活用に関する要望書」を提出した。写真と図面を添え、建物の学術的価値を訴えた要望書である。

 これに対し、川越市は同月23日に次のように回答した。  

 喜多町所在の水村家住宅につきましては、本市といたしましても、歴史的に重要な建造物であると認識しております。

 「諸般の事情により、市指定文化財に未指定で推移しておりましたが、長年居住された方が退去した状況は、教育委員会で把握し、川越市文化財保護審議会(以下審議会)においても、指摘があったところです。教育委員会では、文化財的な価値を明らかにするため、建造物調査を実施し、調査報告書を審議会に提出したところ、市指定文化財に向けて所有者の意思を事務局が確認することになりました。現在所有者に、水村家住宅の文化財的価値を御説明しているところです。

 なお、本市といたしましては、文化財保護法及び川越市文化財保護条例に所有者の所有権その他の財産権を尊重することが定められていることから、所有者の意向を伺いながら協議を進めてまいります。

 部外者である私たちは、前半を読んでホッとしていたのだが、ポイントは最後の但し書きにあった。それが「所有者の合意が得られないから文化財指定はできない」という意味だと知ったのは町並みゼミの1日目であった。決議文は、この状況を踏まえて作成された。少々回りくどい表現になっているのはそのためである。

 その後、2月7日に開催された歴史的風致維持向上委員会で質問した所、担当課の説明は以下のようであった。①所有者の了解は得られず文化財の指定はできない、②すでに解体保存し再建の見通しがないまま保管に費用がかかかっている建物があり、もはや、解体保存という方法を採用する余裕がない、③間も無く記録保存のための調査をおこなう。なお、この建物は風致維持向上計画の歴史的風致形成建造物にも指定されていなかった。

 2月21日の東京新聞埼玉中央版は「町屋建築取り壊しへ」として、15〜16日に調査が行われたことを報じた。この新聞記事でようやく問題の所在がようやく広く市民に知らされたわけだが、3月の11日には、市民有志が記者会見し「現地保存素視野に入れつつ、解体された場合は部材の保存と移築を市に求めていくことを明らかにした」(東京新聞・埼玉3月12日)。

 川越では、昨年6月の鶴川座取り壊しに続く文化財の喪失となる。町並みゼミのテーマのひつだったHUL(Historic Urban Landsape)保全の難しさを突きつけられた。

 現地保存が無理だとすれば、今後は、市民と市が協力して、移転先を見つけ、解体や再建の費用を捻出・調達するしか方法はない。今回がそのような協働のモデルとなればよいのだが。

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