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  • 福川裕一

伝建地区を目指す上での高い建物の問題:まちづくり制度の第一人者・弁護士の日置雅晴先生と堂跡あやこ先生に聞く

更新日:2023年3月6日


伝建地区を目指す上での高い建物の問題
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マンションなど高い建物があるため、伝統的建造物群保存地区(以下、伝建地区)になるのが難しいと言われているという相談が寄せられた。高い建物をどう扱うかは、伝建地区の指定のたびに論点となるポイントだ。この種の問題は、憶測で話しているより、制度を正確に把握するに限る。早速、建築・都市計画などまちづくり制度の第一人者・弁護士の日置雅晴先生のところへ出かけてお話をうかがった。同じ事務所の堂跡あやこ先生とおふたりで疑問に答えていただいた。


Q伝建地区に指定して高さ制限などを決めると、既存不適格になる建物がたくさんできてしまうから指定がむずかしい、と言われているそうです。既存不適格って何ですか?


建てた時の建築ルールでは問題なかったが、その後設けられた新しいルールに抵触することなってしまった建物を「既存不適格の建物」と言います。でも既存不適格の建物は違法建築ではありません。法律では、法令が効力を及ぼすのは、その法令の施行後の出来事に限るという原則があります。法令不遡及の原則と言います。建築基準法は、そのことを第3条(適用の除外)で明記しています。


Qでも、建て替えるときには、新しいルールに従う必要があると聞きました。それを理由に高い建物の所有者は反対されるかもしれないので、指定が難しくなると。


建て替えだけでなく、一定規模以上の増改築や改修を行うときには、建築確認申請の手続きが必要になります。建築基準法に従って、その建物が建築のルールに適合していることを建築確認検査機関に「確認」してもらう手続きです。チェックが終わると確認済証が発行され、晴れて建築ができるようになります。チェックは現行のルールで行います。


Q「確認」ですか? 許可とはまた違うんですね。


法令への適合を○×でチェックするので建築確認(以下、確認と言います)と呼びます。対して許可権者に裁量の余地がある場合を「許可」と言います。でも、確認がおりなければ建築はできないので、広い意味の許可のひとつです。確認と許可はどこが違うか、なぜ建築許可でなく建築確認なのかは、制度発足以来ズーッと論点になっていて一冊の本が書けてしまうので、ここでは深入りをやめましょう。


Q横道へそれてすみません。そうすると、伝建地区を定めて、そこでの建築の最高高さを10mとする基準を決めたとすると、以前から建っていた10m超の建物は、既存不適格の建物となるけど、そのまま使い続けても何の問題もない。ただし建て替えるときには10m以下にしなければならない。そういうことですね。


大まかにはそれでよいのですが、今回はもう少し正確に見ておきます。実は、伝建地区の基準は、建築確認の際にチェックする法令に含まれていません。


Qはー?


まず、伝建地区の高さ規制がどのように定められているかを確認しておきます。伝建地区は、文化財保護法に根拠があり、市町村が条例を設けて指定します。○○市伝統的建造物群保存地区保存条例が標準的な名称で、別の名称が付いている場合や他の条例に含まれている場合もあります[i]。高さ規制は、この条例が作成を求める保存計画の中に「保存地区における建造物および環境物件の保存整備計画」という章があって、そこに修景基準、許可基準などが表に整理されているのですが、その表の中に書かれています[ii]


Qこの表ですね。

一方、建築確認の際にチェックすべき法令は、「建築基準関係規定」と呼ばれ、建築基準法第6条に、①建築基準法並びにそれに基づく命令及び条例の規定(「建築基準法令の規定」という)、②その他建築物の敷地、構造又は建築設備に関する法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定で政令で定めるもの、というふたつが定められています。①は、建築基準法に条例で定めることが認められている事項に関する条例で(建築基準法の委任条例と呼ばれます)、建築安全条例などがあります。

 ②の法律は、建築基準法施行令9条に、「〇〇法の□条及び△条」というように列記されています[iii]。この中に文化財保護法は含まれていません。当然に同法に基づく伝統的建造物群保存地区保存条例も建築確認の対象になりません。

 少し複雑なのは、伝建地区は、都市計画区域では都市計画法に基づく地域地区のひとつとして定めるという点です[iv]。施行令9条には都市計画法は含まれているので、地域地区で定めた基準は建築確認の対象になりそうなものです。しかし、施行令9条では、地域地区を定める都市計画法第8条は、建築確認の対象となる条項としては取り上げられていません。また高さを決めている伝建地区に関する条例は、文化財保護法の委任条例であることは先に述べたとおりです。つまり、伝建地区で定められた基準は、建築基準関係規定には該当せず、確認対象となりません。


Q複雑だなあ。要するに、伝建地区で定められた最高高さを超えていても、建築確認申請は出せるし、確認済証はおりるということですか?


そうなります。似たような状況は、景観法の景観計画区域めぐっても見られます。景観法の導入を決めた自治体は、法律に従って景観計画を定め、多くの場合高さの制限も盛り込みますが、そこで定めた高さ制限は建築確認の対象となりません。景観法の枠組みで、高さを建築確認の対象とするためには、その地区を「景観地区」に指定する必要があります[v]。景観地区を定めるには、地区計画を定める時と同レベルの、住民の合意を得るための手続きを踏む必要があります。

 つまり、伝建地区でも、景観計画区域でも、高さ制限を確認対象とするためには、別途高度地区、地区計画、あるいは上記の景観地区など[vi]、確認対象となる地区を指定し、その中で高さの最高限度を定めることが必要となります。実際、金沢市、神戸市、橿原市(今井町)、日田市、京都市では高度地区を、倉敷市では景観地区を伝建地区に重ねて定めています。


Q都市部がほとんどだ。都市部以外では高い建物が建たないだろうと踏んでいるということでしょうか。


ぎりぎりどこまで強制できるかについては、少し曖昧にしておくほうがスムーズに行く場合もあるという側面も否定できないですね。


Qそういえば、川越一番街を伝建地区にするきっかけはマンションの計画でした。川越もマンションの建設が盛んな都市部です。でも、高度地区はかけていません。そもそも川越市の都市計画は高度地区を定めていません。

 その後、景観法に基づく景観条例を制定し[vii]、景観計画の中で、伝建地区の周辺に「景観形成地域」を設定し、時の鐘より低い16mを最高高さとすることを定めました。これも建築確認の対象にはならないのですね。それでもきっかけのマンションの計画は阻止できたし、その後も高い建物の進出はありません[viii]


急いで付け加えないといけないのですが、伝建地区の保存計画や景観計画で定めた最高高さを超える建物は、建築基準法の違反にはならないが、条例の違反になります。


Qそっか。


伝建地区の条例の場合、伝建地区内で、①建築物等の新築、増築、改築、移転又は除却、②建築物等の修繕、模様替え又は色彩の変更でその外観を変更することとなるなどの行為を行うとき、市長などの「現状変更許可」を受けることを定めています[ix]。許可を受けなかったり、不許可なのに工事を強行した場合、罰金を課することや、工事停止命令や違反是正措置をとることを定めています。高さ制限を超える現状変更には許可がでないので、建築確認がおりたからといって工事に着手すると、条例への違反になります。


Qおっとっと。で、罰金っていくらですか?


罰金は、50万円以下というところもありますが、ほとんどが5万円以下です[x]。是正命令は、建築基準法にもありますが、同法が詳細な手続きを定めているのに対し[xi]、たとえば倉敷の伝統的建造物群保存条例は「あらかじめ、第11条に規定する審議会の意見を聴き、かつ、当該処分又は措置を命ずるべき者について、聴聞を行わなければならない。」と簡潔です[xii]。京都の条例は、このような手続きの規定を欠いています[xiii]。実際に条例による罰則を発動することは手続き的に難しいのではないかと思います。


Qどうしても高い建物を建てたい人は、強行突破してしまいそう。


でも、これまで強行突破した例はないと思います。条例を制定し伝建地区を定めることで、高い建物を建てずに町並みを守るという自治体や住民の意思がはっきり示されます。それに抗してまでマンションを建てようとするひとはまずいないでしょうね。また、伝建地区を指定する場合、自治体や住民団体も住民合意を念入りにやるので、そこまで反対する人はもはや地区内には含まれていないのかもしれません。あるいは、あとあと問題になりそうな建物があったら、区域から外しておくとか、さまざな工夫が行われていると思います。


Qそれにしても、今の一連のお話では、自治体の条例のほうが軽んじられている印象が拭えず釈然としません。条例も法律なんでしょ。


ここまで出てきた条例は、国の法律で条例で定めることが認められている事項に関する条例で、委任条例と呼ばれるものです。対して、1999年の地方分権一括法で、都市計画や建築の分野でも、横出し・上乗せなどと呼ばれる、市町村が自主条例で国の法律より厳しい規制を設けることが可能になったはずです。だけど、そこまでする自治体は少ない。独自の基準を横出し・上乗せするには、それなりの意思と覚悟が必要ですが、国の法律で委任された条例の範囲内であれば、その苦労は免れます。


Q自治体担当者の気持ちになって考えると、心配事がいっぱいという感じですね。伝建地区として高さ規制は必要だ、しかし高さ規制で既存不適格になる建物の所有者は納得してくれるのだろうか、自治体としては「伝建地区の高さ規制は建築基準法の対象外です」などという説得の仕方はできない、などなど。


懸念を払拭する方法はいろいろ考えられます。先ほど、伝建地区の高さ規制を確実なものにするには、高度地区や景観地区を被せることが必要だと言いました。だけど、高度地区や景観地区は、例外を定めることもできる。たとえば、神戸市の高度地区のただし書き[xiv]は、建て替え前の高さ以下であれば「特定行政庁が周囲の居住環境を害するおそれがないと認め,建築審査会の同意を得て許可した場合はこの限りでない」という「許可による特例」を定めています。都市部の高度地区の場合は、既存不適格となる建築物が多く、現在の高さや規模以下の建替えは許容する事例が少なくありません。金沢の高度地区にも同様のただし書きがあります。


Qなるほど。伝建地区に高度地区を重ねると、高さ規制が確実になる一方で、建て替え前の高さが認められる道も開かれるということですね。でも、川越みたいに、高度地区を定めていない都市では、市全体の高度地区をどうするかという検討から始まらざるを得ない。ハードルが高そう。いっそ、そのことを伝建地区の保存計画の中に書き込めないですか?


それは可能だと思います。伝建地区についても、現行規模以内での建替えなど、少なくとも現状より悪化しない場合については、条例の運用として許容する。それ以上の改善は補助などによって誘導していく。


Qこれで懸念の80%は消えたのではないかな。気になるのは、高さの問題に気を取られている間にも、保存すべき建物が失われていくことです。低層で高さが揃うことも重要だけど、伝建地区には建物を保存するという重要な役割があり、その方をもっと重視する必要がある。


そうですね。伝建地区の最大のポイントは、現状変更許可で伝統的な建物の取り壊しや改変をとどめると同時に、修理や修景に補助金が得られることです。あと、伝統的な建物へ建築基準法の適用除外の措置がとられることが大きいのでは。伝統的な建物は、現代の建築基準法に適合しない箇所が多いけれど、伝建地区の中では、その適用を免れることができます。


Q建物の直し方も重要です。


歴史まちづくりでは、観光資源として活用する場合を含め、それぞれの建物が当初から維持してきた形式・構造・材料・意匠など、長い時間を生き延びてきた証を保存し活かしていくことが決定的に重要です。このような証をオーセンティシティといいます。世界遺産を登録するときの基準にもなっているとても重要な概念です。いい加減な修理をして建物の価値を失っては元も子もなくなります。その点、伝建地区の修理・修景は、文化財としての視点が入るので、曲がりなりにも一定のレベルを維持することができます。そこが国交省の街並み環境整備事業などと異なる点で、期限がないことも重要です。毎年の事業規模はそう大きくないけど、10年もたつと町並みが見違えるようになるというのがこれまでの経験で断言できることです。災害時への対応も期待できます。


Q高さ問題は町並み保存の根幹にかかわる論点なのに、今までやもやしていました。それが整理され、だいぶスッキリしました。本日はどうもありがとうございました。これからも、町並みの法律相談をよろしくお願いします。


***

[i] 香取市は「香取市歴史的景観条例」という名称である。神戸市は「神戸市文化財の保護及び文化財等を取り巻く文化環境の保全に関する条例」に含まれる。 [ii] 条例で定める基準は、文化財保護法施行令第4条(伝統的建造物群保存地区内における現状変更の規制の基準)に定められている。 [iii] 建築基準法施行令9条「法第六条第一項(法第八十七条第一項、法第八十七条の四(法第八十八条第一項及び第二項において準用する場合を含む。)並びに法第八十八条第一項及び第二項において準用する場合を含む。)の政令で定める規定は、次に掲げる法律の規定並びにこれらの規定に基づく命令及び条例の規定で建築物の敷地、構造又は建築設備に係るものとする」として都市計画法ほか16の法律が列記されている。文化財保護法、景観法は含まれていない。 [iv] 都市計画法第8条(地域地区)は「都市計画区域については、都市計画に、次に掲げる地域、地区又は街区を定めることができる。」とし、「15 文化財保護法(昭和25年法律第214号)第143条第一項の規定による伝統的建造物群保存地区」を掲げる。一方、文化財保護法第143条(伝統的建造物群保存地区の決定及びその保護)は、「市町村は、都市計画法(昭和43年法律第100号)第5条又は第5条の2の規定により指定された都市計画区域又は準都市計画区域内においては、都市計画に伝統的建造物群保存地区を定めることができる。この場合においては、市町村は、条例で、当該地区の保存のため、政令の定める基準に従い必要な現状変更の規制について定めるほか、その保存のため必要な措置を定めるものとする。」としている。なお、都市計画区域又は準都市計画区域外では「市町村は、条例の定めるところにより、伝統的建造物群保存地区を定めることができる。」となる [v] 景観法も建築基準法施行令9条に列記された法律に含まれない。しかし景観地区は建築基準法第68条に規定されている(第68条は景観法制定以前は「美観地区」にあてられていた。なお、第68条の二以下に地区計画に関する条項が続く) [vi] 高度地区、地区計画は都市計画法、景観地区は景観法が本籍だが、建築基準法により具体的な内容が規定されている。高度地区は第4節(建築物の敷地及び構造)の第58条、地区計画は第7節(地区計画の区域の第68条の二から八まで、景観地区は第6節(景観地区)の第68条 [vii] 川越市は1978(昭和63)年に「川越市都市景観条例」を制定、他都市の条例と同様、建築基準法との抵触を考慮して高さ制限などの規定は置くものの、罰則等は設けず、施主の自主的な遵守に委ねていた。景観法(2004年6月18日公布)制定後、2014(平成26)年3月に、同法に基づく委任条例として新たに川越市都市景観条例(条例第17号)を制定した。 [viii] この点について『川越市歴史的維持向上計画』の「4.重点区域における歴史的風致の維持向上に関する取り組み (1)都市計画法に基づく措置」は、将来高度地区をめざすとして次のようにのべている「商業地域のうち、伝統的建造物群保存地区においては川越市伝統的建造物群保存地区保存条例に基く保存計画により新たに建築する場合の建築物の絶対の高さを11メートル以下とし、その周辺の川越市都市景観条例における川越十カ町地区都市景観形成地域の一部範囲においても、地域景観形成基準において、新たに建築する場合の建築物の高さを、地域のシンボルである時の鐘の高さを超えない範囲16メートル以下とするよう定めている。それぞれの基準は、施行後、地域の基本的了解事項として受け入れられ、開発事業においても遵守されている実績があるため、今後は同基準を都市計画法の高度地区における制限として規定することを目指す。」(105 ページ)https://www.city.kawagoe.saitama.jp/shisei/toshi_machizukuri/machizukuri/toshikeikan/rekishikiteki/rekimachikeikaku.files/rekimachi-4.pdf [ix] 文化財保護法施行令第4条(伝統的建造物群保存地区内における現状変更の規制の基準) [x] 京都市は50万円以下、神戸市および名古屋市は30万円以下と大都市は高額である [xi] 建築基準法第9条(違反建築物に対する措置)に15項にわたって定められている [xii] https://www.city.kurashiki.okayama.jp/6496.htm [xiii] https://en3-jg.d1-law.com/kyoto/d1w_reiki/H351901010006/H351901010006.html

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