• 山本玲子

東京の唯一の重要文化的景観・柴又帝釈天参道を横切る道(柴又街道)が幅15メートルへ拡幅される

更新日:3月27日


団子屋などでにぎわう柴又帝釈天の参道

 第43回全国町並みゼミ川越大会分科会に報告いただいたご縁で、今年の全国町並み保存連盟の総会は、柴又で開催しようと、お願いして、実は会場の下見もしていました。文化的景観について事例を学びたいということと、参道を分断する都市計画道路の拡幅の計画について、できれば住民の方と懇談したいと考えていました。

 今も毎週土曜日にテレビで放映されている人気シリーズ「男はつらいよ」(山田洋二監督)の舞台として有名な柴又帝釈天門前参道(しばまたたいしゃくてんもんぜんさんどう)。「わたくし、生まれも育ちも東京葛飾柴又です。帝釈天で産湯を使い・・・」は有名なセリフです。その寅さんに会えそうな参道の情緒を求め、柴又には多くの観光客が訪れます。ところが、この参道と直交する柴又街道を、既存幅員11mから15mに拡幅する計画が1947年(昭和22)に決定していて、その計画が今、動き出したのです。


柴又街道の拡幅計画

 東京都の資料から、この計画を見てみましょう。柴又街道は、JR常磐線金町駅の南側、水戸街道の金町三丁目交差点からJR総武線小岩駅の東側を通り、江戸川区の旧江戸川堤防手前の交差点で都道450号線と交わるまでの延長約10㎞、往復2車線の道の通称で、都市計画道路名を「補助第143号線」といいます。私の自宅もこの柴又街道に面していて、通勤途中には拡幅工事が進んでいる部分があります。東京都は、「東京における都市計画道路の整備方針(第四次事業化計画、2016年(平成28)3月)」において、補助第143号線を優先整備路線に位置づけ、ちょうど1年前の2019年(平成31)年12月に国土交通省から都市計画事業の認可を得て事業に着手しました。拡幅されるのは柴又7丁目から柴又5丁目まで延長約580m、ちょうど柴又帝釈天門前参道と交差するところから南側になります。

道路拡幅に伴い延焼遮断帯が設けられることを危惧する図を掲載していましたが、本地区は特定整備路線ではないため、延焼遮断帯はありません。謹んで訂正し、改めて用途地域図を掲載します。柴又街道の沿道は、商業地域に指定されており、高さ制限は16mないし制限なしです。防火地域でもあり、拡幅に伴う建て替えで「景観の国宝」が、損なわれる危惧は変わりません。なお、本図は国土地理院の数値マップに葛飾区のホームページから得た都市計画の情報を重ねたもので、用途地域の境界は正確ではありません。およその位置としてご覧ください。

 葛飾柴又は、江戸川の右岸、東京低地の東端に位置します。東京低地のかなりの部分は、元は人や馬が通行できないような湿地帯でしたが、葛飾柴又辺りは微高地で、古代には集落が形成され、農耕が行われていた跡も見られます。干潮時には渡河しやすく、古くから「渡し」の場とされ、水上交通と陸上交通とが交差する交通の要衝の地として発展してきました。帝釈天題経寺(だいきょうじ)が建つのはこのような場所です。1629年(寛永6)の創建で、江戸の名所として知られるようになり、門前が町場化し、発展したものが現在の参道です。

 帝釈天題経寺と門前、それを支えたかつての農村部、そして周辺の水田が近代以降に大都市近郊の開発の歴史を伝える地域の131.2 haが、2018年(平成30)2月に国の重要文化的景観に選定されました。東京都初の選定で、地元には「風景の国宝」と横断幕がはられ、区の資料には「日本を代表する景観の一つとなり、話題となることによって観光客誘致や魅力あるまちづくりや地域の活性化へと繋がることが期待できる」とあります。重要文化的景観の範囲は、柴又地域景観地区として都市計画決定もされています。柴又帝釈天門前参道は、200m程の短い参道ですが、この短い参道と直交する補助第143号線が4m拡幅され、11mから15mとなった場合、参道の景観的分断を免れることはできません。なぜ、都市計画道路の事業着手という、文化的景観の価値を損なうような計画が決まったのでしょうか?


参道と直交する道路が拡幅される

補助第143号線の拡幅の影響

 先述した「東京における都市計画道路の整備方針」と同時期に出された東京都の「防災都市づくり推進計画」では、「首都直下地震の切迫性等を踏まえ」、防災上の重要度から道路を「骨格防災軸」、「主要延焼遮断帯」、「一般遮断帯」の3つに区分して、緊急車両の円滑な通行や延焼遮断を図ろうとしていて、補助第143 号線は「主要延焼遮断帯」に位置づけられています。そのため、沿道は防火地域や準防火地域とされており、拡幅に伴う沿道建築の新築や改築にあたっては、防火上の建築基準を満たしたものであることが求められます。

 重要文化的景観は、制度上、他の法律や条令等に基づいて保存に必要な措置をとるしくみになっていて、建築の規制及び誘導は主として建築基準法と葛飾区による「柴又地域景観地区運用基準―建築物編―」等によって行われることとなっているということです。この運用基準では、「参道に面する建築物は、屋根や外壁等に和風の自然素材や風合いが感じられる素材を使用する等、帝釈天の雰囲気や境内の緑と調和のとれたものとする。」とあります。沿道の建物は、不燃化・難燃化が行われた上での外観上の工夫となるので、「調和」にも限界がありますし、何よりも既存の伝統的な木造建築の継承がどこまで図れることができるのか疑問です。


現在の補助第143号線。路線バスも通る

柴又帝釈天門道の下町情緒を継承するために

 すでに補助第143号線は都市計画事業として認可され、拡幅に向けて地元への説明や用地買収等に向けた様々な調整が進められていると聞きます。拡幅やこれに伴う建築の改変が、柴又帝釈天門前参道の景観に与える影響は極めて大きいのではないかと容易に想像できますが、この道路拡幅でどのように町並みが変わっていくのか、気づいている住民の方が少ないと聞きますので、拡幅によって柴又らしい風情の景観が変わり、地元が期待していた観光客誘致や魅力あるまちづくりに影響が出てくるのではないかと気になります。防災と景観の両立を図るため、葛飾柴又らしい方法が見つけられるよう、全国町並み保存連盟として、まだ来年度以降の総会の開催もあきらめてはいません。今後の動向を注視したいと思います。

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