町並みの国際関係事情
日米首脳会談が終わり、日本の外交下手が際立つ今日このごろだが、私のささやかな町並み外交も元気なアジア諸国に圧倒され続けている。
先週末(4月13〜16日)、北京へ出向いた。“The First Official Working Meeting of CIVVIH Asia-Pacific Sub-Committee and the Scientific Symposium”に出席のためだ。CIVVIH (International committee on Historic Towns and Villages) はイコモスのもとに設けられている28の学術委員会のひとつ。歴史的都市および集落を担当する。2004年に町並み連盟関係者も参加して内子を中心に開催されたのは、民家を担当するCIAV (International committee on Vernacular Architecture) の年次総会だ。日本イコモスの代表だった前野まさる先生が奮闘、ちょうど愛媛県が主催した「えひめ町並博2004」と連携して開催した。
私のCIVVIHへ参加は2001年のポルト(ポルトガル)からである。石井昭先生から「CIVVIHの投票権のあるメンバーに任命する、費用はいっさい負担しないが行くように」という電話があり始った。しばらくはアジア太平洋からの参加は、オーストラリアを除いてなかった。2009年のナル二(イタリア)に韓国が登場、2012年には北京で昼食会が開催された。2009年は、韓国がハーフェとヤンゴンを世界遺産登録にノミネートした年である。以降、両国のプレゼンスは急速に大きくなっていった。2016年にはソウルでCIVVIHの年次総会が開催された。韓国の次のターゲットは漢陽都城・ソウルの世界遺産登録である(今年登録見込み)。
そして今回の、アジア大西洋小委員会の第一回会合。CIVVIHにはすでに、地中海、中東ヨーロッパなどの小委員会があり、CIVVIHにとってアジアがその列に加わる意義は確かに大きい。今回の会合では、小委員会の運用指針を仕上げ、清華大学建築学科が事務局をつとめることが決った。中国は、イタリアの53件に次ぐ52件の世界遺産を擁する世界遺産大国である。その数はまだまだ増えそうだ。清華大学建築学科はそのプランニングを一手に引き受ける司令塔である。もっとも、今回アジア太平洋から参加したのは、中国、韓国、オーストラリア、日本だけ(ほかは、ギリシャ、ドイツ、ロシア、ベルギー)。ほかのアジア諸国の参加はこれからの課題だ。
以上を通じで痛感するのは、各国の自国の世界遺産(候補)を世界へアピールするたしたたか・周到な国際戦略だ。ひるがえって日本は、歴史的都市(町並み)を中心に据えた世界遺産を候補も含めて持たない。理論と実践の両面で着実に経験を重ね、生活空間としての歴史的町並みの重要性を訴え共感する人を増やしていくのが正道だろう。
というわけでシンポジウムでは、私はここ10年の日本の町並みをめぐる動きをレポートした。「50周年を迎えた日本の町並み保存は、これまで保存地区を定め、言わばそこを現代の文脈から切り離して保存する方法だった。しかし、ここ10年、市場で歴史的地区や建物の価値を評価する動きが顕著になってきた」と前置きして、京都の町家保存や、日本版アルベルゴデフーゾの動きを紹介した。京都の観光化による負の効果とルールブックのこともとりあげ、最後は、谷根千の空き家活用と中国でも若者たちが実践している同様の動きを重ねた。
シンポジウムのタイトルは「アジア太平洋における歴史的都市、町、都市圏の持続可能な保存とマネジメントの実践と方法」だった。その下で中国人発表者のほとんどが農村集落の保存をとりあげていたのは興味深かった。
*写真は清華大学、世界でもっとも美しいキャンパスのひとつとされる
*発表したスライドを、2016年のソウルで発表したものとともにアップロードしておきます。興味ある人はどうぞ