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  • 山本玲子

文化財保護法改正について

昨年、文化財保護法改正のために設置された文化審議会文化財分科会企画調査会の第五回を傍聴した。そこでは、2016年3月に出された「明日の日本を支える観光ビジョン」に掲げられた「文化財を保存優先から活用へ」を背景に、調査会の中間まとめに向けて熱い議論が交わされた。観光資源として担い手を求める建造物と、公開そのものが文化財としての価値の毀損の可能性のある美術工芸品など、「活用」についての議論だ。日本の文化財保護法は、有形無形のもの、不動産から動産、そしていわゆる人間国宝といわれる「わざ」までを対象とする幅広いものである。「活用」の手法もさまざまで議論が起きるのは当然だ。さらに今回、文化財保護法の改正と同時に国会に提出された「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」の改正により「地方公共団体の文化財保護の事務は条例により地方公共団体の長が担当できるようにする」ことに不安の声があがっている。

来年4月に施行される文化財保護法の改正の概要が発表された。急速な過疎化高齢化により地域社会総がかりで、文化財をまちづくりに活かしつつその継承に取り組むことが必要であるとされ、骨子は以下の通りである。

・都道府県は文化財の保存・活用に関する総合的な大綱を策定できる。また、市町村は文化財の保 存・活用に関する総合的な計画「文化財保存活用地域計画」を作成し、国の認定を受けられる。この認定を受けることによって、市町村から登録文化財の提案ができるようになる。

・国指定文化財等について所有者又は管理団体は保存活用計画を作成し、国の認定を申請できる。認定を受けた保存活用計画に記載された行為については手続きの弾力化が可能となる。美術工芸品については相続税の納税猶予ができる。

なお、重要伝統的建造物群保存地区および重要文化的景観については、この概要には触れられていないが、文化財分科会企画調査会第一次答申にこう記されている。既に両者は国に選定を申請する際に「保存計画」が必要で既に制度化されており、実質的には「保存活用計画」と同等の機能を果たしているが、ただし、今回の改正では他の文化財と同様の名称にすることが適当であるとしている。言い換えれば、これまでの「保存計画」が「文化財保存活用地域計画」として位置付けられるようになる。

・その他、地方公共団体の長が文化財保護を担当する場合、地方文化財保護審議会を必須とすること、罰則の見直しも盛り込まれた。

*この改正の概要は、HP「文化財保護法及び地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律案]見ることができる。

  歴史的集落・町並みを対象とした伝建や文化的景観を守るしくみは、今回の改正に先んじて「保存計画」を策定し、既に市町村長部局や教育委員会と他課が協力して担当している市町村もある。ただし、伝建地区協議会を構成する94市町村のうち半数以上の52市町村は人口5万人以下ということからもわかるように、多くの市町村は小規模で職員も限られているのが事実だ。まちづくりや観光の核として歴史的集落・町並みを積極的に捉え、住民や市民団体とともに取り組む市町村とそうでない市町村の差が出てくることは容易に想像できる。全国町並み保存連盟の会員の中にはコントロールできない観光圧力の悩みを抱えておられ、「観光ビジョン」がさらに観光に拍車をかけている地区もあるが、多くは過疎化高齢化による空き家や担い手の減少である。数年で解決できる問題ではないが、長い時間をかけて光を見出した団体もある。全国町並み保存連盟では、町並みゼミやブロックを通じて、情報交換できる場をこれからも作っていきたい。

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